
業界初のテープ起こし
Uターン現象を生んだ要因は、大都市での仕事に行き詰まったり、夢破れて出身地に戻る人たちが増えたことと、地価が上昇した都心部ではマイホームを建てられないという状況が重なったことが大きい。
特に、二十~三十歳代の若い層にとって、都心の持ち家はむずかしいという認識が一般化していった。
そうして、オフィスのある都心から少し離れた神奈川県、埼玉県、千葉県に住居を構えるケースが増え、さらに安い土地を求めて山梨県、茨域県、静岡県など、首都圏の外にマイホームを建て、新幹線で通勤する人までもが現れた。
交通機関の高速化が、こうした郊外でのマイホーム購入を可能にしたともいえる。
実際、マイホームからオフィスまで一〇〇~二〇〇キロメートル、またはそれ以上の距離を通勤するサラリーマンも少なくなかった。
当時は排気ガスなどで空気が汚染された都心で働きながら、週末は豊かな自然に恵まれた、広めの自宅でのんびりと休日を満喫するというライフスタイルが羨望の的となった時期である。
こうした郊外にマイホームを建てる人たちが増えるなか、都心で生まれ育った人が地方や農村などに永住しようと、都市部から離れる「Iターン」と呼ばれる現象まで現れた。
都市の利便性を十分に理解しながらも、地方でのんびりとした生活を送りたいという価値観がIターンの人たちのバックボーンにはある。
ところが、一九九〇年代の後半から、一転し、都心に住みたいという「職住接近」 の傾向が強まってきた。
そのきっかけは、地価の下落と、企業などの遊休地の放出にともなって比較的低価格のマンションが多数、供給されるようになったのに加え、郊外で暮らしてみて、改めて医療や教育・文化施設が整っている都心の利便性を再認識したという人が多かったのではないだろうか。
「「都心回帰」という現象に、顕著に出ています。
これは、少子化の問題ともからんでくることだと思っています。
というのも、これまで一生懸命、都会で働き、週末くらいはのんびり郊外で、庭のある生活がしたいという欲求が優先されたのですが、少子化が進むにつれて、家族においてはお子さんの教育(施設面での)環境をどう考えるかが優先されるようになりました。
親の夢のためではなく、たった一人の子どもNうお金を使えばいいのか。
つまり、都心回帰は子どものための選択でもあると思います」首都圏における戸建住宅のニーズをこのようにとらえているのは、東京・城南地区において戸建分譲住宅を供給している株式会社Nの代表取締役・H氏である。
政府も、都心居住を住宅政策の中心に位置づけ、優良なファミリー向け住宅の供給促進制度を創設し、都心の高層マンションだけではなく、都心の賃貸住宅や戸建市場の充実をめざすという方向性を明確に打ち出した。
そうしたなかで、都心に戸建てのマイホームを建てることが、ステータスシンボルになりつつある。
都心の超高層マンションも魅力的だが、住居空間に自由度の高い戸建住宅に暮らしたいという層は確実に増えてきている。
そこで、マンションと戸建住宅のそれぞれのメリットを列記してみよう。
*防犯上の問題が少ない。
*同じような条件の戸建てよりも低価格で、不動産に関する税金も安い。
*交通の利便性が高い立地が多い。
*共有部分を有効活用できるほか、外回りなどの清掃は管理会社が担当してくれる。
*建物のメンテナンス費用は全住民が分担するため、戸建てよりも安い。
*自分だけの庭を所有できる(マンションの一階スペースに庭がついている場合はある)。
*地価の下落もようやく落ち着き、資産価値が高まった。
*マンションよりも高額だが、コンパクトなミニ戸建てであれば大きな価格差はない。
*管理費や駐車場の費用がかからない。
*ペットや騒音などのトラブルは少ない。
*増改築やリフォームなどの制限が少なく、二世帯住宅に改築するなど、ライフスタイルの変化に対応しやすい。
*注文住宅であれば、聞取りや建材・設備、住宅性能の選択など、建築についての自由度が高い。
こうしたそれぞれのメリットを比較しつつ、将来の転売や第三者への賃貸を考え、資産価値の高い戸建てを選択するというケースが増えてきている。
住宅用地にもよるが、ミニ戸建ての台頭により、以前よりも戸建住宅の価格がやや下がってきた点も、都心での戸建て人気に拍車をかけているようだ。
こうした要因もあり、都心部でも戸建住宅の着工戸数は増加傾向にある。
最近の戸建てブームを、いくつかのデータから検証してみよう。
東京都が発表した平成十七年の「住宅着工統計」によると、分譲住宅のうちマンションの着工戸数は二年連続で減少しているのに対し、二戸建ての着工戸数は三年ぶりに減少に転じたものの、二万戸以上の供給を続けている。
また、不動産情報サービス会社であるA株式会社の調査によると、平成十七年の首都圏(一都三県)の新築戸建て成約件数は、東京二三区で五年ぶりに減少に転じたものの、全体としては二万五九五〇件に達して過去最高を更新し、六年連続の増加となった。
成約価格は前年比二・〇%下落の平均三四一九万円で、こちらは八年連続の下落である。
成約件数がもっとも多かったエリアは埼玉県の六八三六件で、全体の二六・三%を占めた。
しかし、増加率では前年比二七・六%増の千葉県がトップである。
ちなみに、中古の戸建て成約件数は前年比八・五%減の四八五六件で、十一年連続の減少となったものの、成約価格は平均二八五六万円(前年比三・〇%増)とプラスに転じている。
一方、エリア別の平均成約価格は、東京二三区で四九〇一万円(前年比三・四%上昇)、都下で三五四五万円(同〇・二%上昇)と若干上昇しているものの、神奈川県で二九五二万円(同一・八%下落)、埼玉県で二七七五万円(同二・八%下落)、千葉県で二六七五万円(同四・八%下落)と三県が下落し、全体平均を引き下げた。
こうしたデータからも、都心近郊の戸建てニーズが向上してきたことが推測できる。
また、Ty株式会社の関連会社である株式会社Tys研究所が実施した、第二回「サラリーマンの住まいの意識調査」(平成十七年六月発表)でも、都心近郊での小規模なミニ戸建てニーズが浮き彫りとなった。
これは、首都圏に本社のある東証一部上場、東証二部上場、およびJASDAQ上場企業に勤務するサラリーマンを対象に、アンケート形式で調査を行ったもので三六〇〇名を対象とし、有効回答数は四七一名。
回答者の平均年齢は四十・六歳、平均世帯収入は七七六万円)、調査結果を見てみると、住宅購入計画のある人は全体の二五・五%。
計画している住宅のタイプは戸建てが六〇・八%(前年比一一了五%増)、マンションが二七・五%(同七%減)となり、戸建てを望む人の割合がマンションを大きく上回っている。
住まいに対する考え方は、「戸建て・マンションにこだわらない」人の割合が減少する一方、「同じ価格ならばマンションよりもミニ戸建てを選ぶ」「いずれは一戸建てに住みたい」という人が増加し、戸建て志向が強まっている。
その反面、「都心より郊外でゆったり暮らしたい」という人が減少し、「住宅が多少狭くなっても都心に住みたい」という人が増加した。
こうした結果からも、都心近郊の戸建てニーズが向上していると判断できる。
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